王国の分岐点と、王の孤独
ある年、異変ははっきりと姿を現す。
病ではない。
枯れているわけでもない。
だが、トマトの“深み”が失われ始めた。
味は甘い。
見た目は美しい。
しかし、食べた後に残る余韻が、驚くほど短かった。
国外の評価は分かれた。
「安定して美味しい」
「だが、以前ほど印象に残らない」
王国の評議会は騒然となる。
「十分です!」
「市場は満足しています!」
「これ以上の理想は、贅沢です!」
その夜、王は眠れず、古い建国文書を再び開いた。
そこに、かつて見過ごしていた一節があった。
「トマトは、人の欲を映す鏡である
欲が速さを求めれば、味は浅くなり
欲が量を求めれば、土は沈黙する」
王は理解した。
自分自身もまた、知らぬ間に「守っているつもりで、譲っていた」のだと。
翌日、王は評議会で告げる。
「輸出量を半減する」
「効率化技術の使用を制限する」
「子どもたち全員に、土に触れる義務教育を設ける」
反発は激しかった。
「国を貧しくする気ですか!」
「理想論です!」
「王は現実を見ていない!」
王は静かに答えた。
「現実とは、数字のことか?
それとも、この国に生きる理由のことか?」
支持者もいたが、多くは沈黙した。
王は、かつてない孤独の中で決断を実行する。
短期的に、王国は確かに苦しくなった。
収入は減り、不満は増え、王の求心力は弱まった。
それでも王は、畑に立ち続けた。

