声を取り戻した国
変化は、すぐには現れなかった。
土は疲れていた。
人もまた、結果を急ぐ癖が抜けなかった。
だが、数年が過ぎるころ、
子どもたちの手で植えられたトマトが、最初に応え始めた。
形はいびつ。
色もまばら。
だが、噛んだ瞬間、懐かしい沈黙が口いっぱいに広がった。
「……これだ」
老農夫が涙を流した。
市場に再び、物語が戻る。
「このトマトは、王様が嵐の日に守った畑のものだ」
「この種は、十年前に失われかけた品種だ」
量は少ない。
だが、一つひとつに意味が宿った。
国外からの評価も変わる。
「唯一無二」
「代替不可能」
リコロ三世は、晩年、畑の隅で静かに座ることが多くなった。
王冠はかぶらず、土を手に取り、目を閉じる。
「聞こえるか」
風に揺れる葉、土の呼吸、人々の足音。
すべてが、確かな“声”として戻ってきていた。
彼が守ったのは、トマトでも、王国でもない。
「育てるとは、共に生きることだ」という思想だった。
そしてその思想は、
赤い実となって、今日も静かに実り続けている。


